「FTCヘビー級王者ってのは、お飾りなのか?」
開口一番、彼はそう疑問を呈した。
初代FTCヘビー級チャンピオン サイレンス佐山。
Borusse Mohkoと共にチームPVBを率い、FFFのヘビー級戦線の先頭に立つ男だ。
だが、彼の表情に明るさは無い。その理由は明白だ。
3月に初代王座を戴冠してから半年以上、防衛戦が組まれていないからだ。
「ベルトを巻いたら王者だ。それは間違いない。だが、王者が王者であり続けるためには、その資格があることを周りに示し続けなくてはいけないと思う。それがプロレスの王者であるならば、力を示す場所は防衛戦だろう。しかるべき挑戦者を退けて、ベルトを守り続ける。それこそが真の王者だろう。
防衛戦をしていない王者など、本当のチャンピオンだと思うか?
俺は、まだ思えない」
実のところ、防衛戦を行う機会は何回かあった。
トミー・タロー、あるいはヘリオス南騎がチームPVBの二枚看板の片割れであるBorusse Mohkoにシングル戦で勝っていれば、それは行われたはずであった。
だが、結果は二人とも敗北。
かくして、防衛戦は行われずに半年以上の時が過ぎてしまった。
「正直、Mohkoが勝ったことは嬉しかった。同じチームだし、相手は二人とも強敵なのはわかっていたからね。だけど一方で、王者としては寂しさもあった。闘ってこその王者だからな。
…だからさ、もうそろそろ我慢ができなくなった」
佐山はニヤリと笑うと、声を荒げた。
「トミー! ヘリオス! 次の大会、お前らは組んで、俺とMohkoのチームと闘ってもらう! 純粋なタッグでもいいが、多少は遊びが欲しいからな。6人タッグだな。こっちは皇が加わることになる。もう一人は、適当に選びな。
そこで俺らが負けたら、タイトルマッチだ! 過去はともかく、FFFではたいして結果を残せてない奴らに、しかも一度はチャンスをフイにした奴らに、またチャンスをやるんだ。優しいだろ?
残念ながら、いや、順当に、か? 俺たちが勝ったら、俺とMohkoでタイトルマッチだ。
最初の防衛戦が同門対決なんで興ざめだが、他がしょぼいんじゃ仕方ないよなあ!
トミーとヘリオス、あともう一人の誰かさんよ! 悔しかったら、見せてくれよ。FFFのヘビー級の底力ってやつをさ!
頼むぜ、本当によ!」
ひとしきり吠えると、王者は磨き上げられたベルトを持って、席を後にした。
その背中には、餓狼のような気迫が溢れていた。